大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成10年(ワ)689号 判決 1999年6月10日

東京都渋谷区上原三丁目六番一二号

原告

社団法人日本音楽著作権協会

右代表者理事

小野清子

右訴訟代理人弁護士

北本修二

大阪市住吉区殿辻二丁目二番一〇号

被告

有限会社沢ノ町会館

右代表者代表取締役

増田泰治

大阪市住吉区殿辻二丁目二番八号

被告

増田光均

右被告両名訴訟代理人弁護士

洪性模

許功

右訴訟復代理人弁護士

李載浩

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金一九六万一五五九円及び内金一八八万〇九六〇円に対する平成八年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を被告らの連帯負担とし、その余を原告

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

被告らは、原告に対し、連帯して金二二五万八七六〇円及び内金二〇三万〇九六〇円に対する平成八年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が被告らに対し、原告が著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)の著作権を被告らが共同して侵害したとして、損害賠償を請求した事案であるが、具体的には原告は、被告らが、その共同経営に係るカラオケ歌唱室にて管理著作物を再生し、伴奏音楽に合わせて客に歌唱させた行為が、管理著作物の演奏権を侵害すると主張したものである。

一  基礎となる事実(いずれも争いがないか後掲各証拠により認められる。)

1  当事者

(一) 原告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(以下「著作権仲介業務法」という。)に基づく許可を受けた唯一の音楽著作権仲介団体であり、内外国の音楽著作物の著作権者からその著作権ないし支分権(演奏権、録音権、上映権等)の移転を受けるなどしてこれを管理し(内国著作物についてはその著作権者から著作権信託契約約款により、外国著作物については、我が国の締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約による。)、国内のラジオ・テレビ等の放送事業者を始めレコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送等各種の分野における音楽の利用者に対して音楽著作物の利用を許諾し、利用者から著作物使用料を徴収するとともに、これを内外の音楽著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。

(二) 被告らは、共同して、大阪市住吉区殿辻一丁目二番一〇号所在「カラオケルームシグマ」(以下「本件店舗」という。)において、平成六年四月から同八年三月までカラオケ歌唱室の営業を行っていた。本件店舗で日常的に反復使用されている楽曲のほとんどは、原告が著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)である。

2  本件店舗におけるかラオケの使用状況

(一) 本件店舗は年中無休であり、営業時間は毎日正午から翌午前二時までであり、土曜日及び祝日前日は翌午前五時までであった。

本件店舗には、カラオケ伴奏の再生及び歌唱に使用される歌唱室が一六室あった。うち、一五室は定員一〇名までであり、一室は定員一〇名を超え三〇名までであった。

(二) 本件店舗には、通信カラオケ装置一式(受信・再生・配信装置)、リモコン装置が、各歌唱室にはアンプ、オートチェンジヤーコマンダー、モニターテレビ、マイク、スピーカー等が設置されていた。

(三) 国本件店舗において使用される通信カラオケシステムは、訴外株式会社エクシング(以下「エクシング」という。)が集中管理するものであり、被告らは、訴外株式会社ケーティーユーを通じて、エクシングの許諾を受けて、その作成に係るカラオケ伴奏用楽曲データ(管理著作物を複製したもの)を利用してきた(乙1ないし16)。

三  争点

1  本件店舗での管理著作物の再生・歌唱が被告らによる演奏権侵害を構成するか。

(一) 本件店舗における管理著作物の再生・歌唱主体は誰か。

(二) 本件店舗における管理著作物の再生・歌唱は、著作権法二二条の「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とするものか。

(三) 本件店舗における管理著作物の再生・歌唱は、著作権法附則一四条による自由使用の適用があるか。

2  本件店舗での管理著作物の再生・歌唱は原告のエクシングに対する管理著作物利用許諾の効力が及ぶ適法なものか。

3  損害額

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(演奏権侵害性)の(一)(再生・歌唱の主体)について

【原告の主張】

本件店舗のようなカラオケ歌唱室においては、経営者は、対価を得て、不特定多数の客をカラオケ歌唱室に誘引し、用意した歌唱室・カラオケ装置・カラオケソフトを利用させ、その許した時間・空間内において、客に歌唱をさせる営業を行っており、管理著作物の再生はもとより、客による歌唱も、店舗経営者の管理の下に行われている。したがって、本件店舗における管理著作物の再生・歌唱の主体は、経営者である被告らであり、本件店舗における管理著作物の再生・歌唱は、被告らによる演奏権侵害を構成する。

【被告らの主張】

本件店舗において現実に歌唱しているのは客であり、生の事実として客が歌唱主体である点は明白である。また、本件店舗では、店舗経営者の従業員による歌唱の勧誘行為は行われず、カラオケ装置は客が操作し、各歌唱室は防音構造を採っているので客の歌唱が一定の雰囲気を醸成して他の客の来集を喚起するという効果がない点において、歌唱行為に関する客の独立性は確保されているから、歌唱行為についてのイニシアチブも客にある。したがって、歌唱行為における音楽著作物の利用主体は客であると解すべきであり、被告らによる演奏権侵害はない。

二  争点1(演奏権侵害性)の(二)(対公衆性)について

【原告の主張】

1 著作権法二二条が、演奏権の及ぶ範囲を「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とするものに限定したのは、経済的効用を期待し得る利用にのみ著作権が及び、経済的効用を問題にする余地のない私的利用については著作権が及ばないものであることを示すためであり、この趣旨は、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)に適合するものでなければならないところ、著作権法二二条と同趣旨のベルヌ条約一一条(1)の「公に」の意義に適合するものである。

被告らは、本件店舗に誘引した客に対し、歌唱室・カラオケ機器・カラオケソフトを提供する営業を行ってきたものであり、カラオケ歌唱室における再生・歌唱は、管理著作物の利用を直接の営業目的とするもので、およそ私的利用の範疇には属しないから、著作権法二二条の要件を満たす。

2 カラオケ歌唱室における管理著作物の再生・歌唱の主体は店舗経営者であり、店舗経営者は、管理著作物の再生・歌唱を不特定の客に提供することを目的として店舗を経営している。したがって、管理著作物の利用主体である店舗経営者との関係では、聞き手である客は不特定の者であるから、著作権法二二条の要件を満たす。

【被告らの主張】

カラオケボックスでの歌唱の実体は、客から見れば、店舗経営者の直接の干渉なく自由に選曲し、伴奏に合わせて自由に歌唱することであり、店舗経営者の側から見れば、そのような場及び装置を提供する対価として利用料金を客から徴収するというものである。すなわち、カラオケボックスにおける歌唱行為は、不特定の来集する客にカラオケ伴奏による歌唱を聴かせる目的.で行われるものではない。したがって、本件店舗における管理著作物の歌唱は、」「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とするものではなく、著作権法二二条の要件を満たさない。

三  争点1(演奏権侵害性)の(三)(自由使用)について

【被告らの主張】

適法に複製された音楽著作物の演奏の再生については、音楽鑑賞目的の飲食営業店舗での再生(著作権法施行令附則三条一号)等でない限り、著作権侵害を構成しない(著作権法附則一四条)ところ、カラオケ歌唱室については、「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの」とはいえないから、著作権法附則一四条が適用される。

カラオケボックスにおいては、客がイニシアチブをとってカラオケ歌唱を行うものであるから、一般国民の歌唱・演奏権(著作権法三八条)の保護を考えれば、管理著作物の演奏権は、末端のカラオケボックスにおける個人の歌唱・演奏には及ぼないと解すべきである。

【原告の主張】

本件店舗は、飲食物を提供し、「音楽を鑑賞」することを営業内容として広告しているものであり、設置されたカラオケ装置は「音楽を鑑賞させるための特別の設備」に該当するのであって、著作権法施行令附則三条一項の事業に該当するから、著作権法附則一四条の適用はない。

四  争点2(利用許諾に基づく適法利用)について

【被告らの主張】

本件店舗はエクシングから通信カラオケの配信を受けているところ、エクシングは、通信カラオケ事業において、<1>自ら作成した楽曲データなホストコンピュータのデータベースや端末機械の記憶装置に複製し、送受信装置を用いて有線送信する事業と、<2>右複製された楽曲データをカラオケ店舗営業者に月額の使用料を徴収して使用許諾する事業の二個の事業を営んでいる。「そして、原告は、エクシングとの間で、右両事業に関する管理著作物の利用許諾契約を締結した。

本件店舗における管理著作物の演奏・歌唱行為は、エクシングの複製にかかる楽曲データの使用許諾がなければ行い得ないものであり、エクシングの<2>の事業と不可分一体のものであるかち、エクシングの<2>の事業について原告の利用許諾がなされた以上、本件店舗における管理著作物の演奏・歌唱行為にも原告による利用許諾の効力が及ぶと解すべきである。

【原告の主張】

原告がエクシングに与えた管理著作物の利用許諾は、エクシングの複製に係る楽曲データの受信先店舗における演奏・歌唱を含まないから、被告らの主張は失当である。

五  争点3(損害)について

【原告の主張】

1 被告らは、本件店舗において、カラオケ装置を稼働させ、管理著作物をカラオケ伴奏により歌唱させる行為が原告の著作権の侵害になることを知りながら又は過失によりこれを知らないで侵害したのであって、これにより原告が被った損害を賠償する義務がある。

2 本件店舗の各歌唱室は、すべてビデオカラオケによる歌唱であるところ、本件店舗の歌唱室の規模及び数に原告のカラオケ歌唱室使用料率表(別紙1)を当てはめれば、本件店舗の一か月当たりの管理著作物使用料相当損害金は七万〇〇四〇円(消費税込み)であり、前記基礎となる事実1(二)記載の被告らの営業期間(二四か月)全体では<1>合計一六八万〇九六〇円となる。

そして、毎月発生する右損害金に対し各月末から平成八年三月末日までの民法所定の年五分による遅延損害金は<2>二二万七八〇〇円であり(内訳は別紙2のとおり)、弁護士費用相当損害金としては<3>三五万円が相当である。

よって、原告は、被告らに対し、<1><2><3>の合計二二五万八七六〇円の支払及び<1><3>に対する平成八年四月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める権利がある。

【被告らの主張】

原告が主張するカラオケ歌唱室使用料率表は、本件での請求期間当時、文化庁長官の認可を得ていなかったから、原告が通常受けるべき金銭の額の基準として機能しない。確かに、右基準で他のカラオケ歌唱室業者が原告との間で契約を締結しているのが現状であるとしても、契約締結を行うか否かは各業者の自由意思に基づくもので、原告が附合契約の一環として決定した額が一般に原告管理著作物の使用の通常の対価であるとの裏付けは一切ない。

したがって、原告の請求額は失当である。

第四  争点に対する裁判所の判断

一  争点1(演奏権侵害性)の(一)(再生・歌唱の主体)について

1  本件店舗におけるカラオケの利用状況について

前記基礎となる事実2、甲6及び甲7によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件店舗では通信カラオケシステムが採用されており、カラオケ歌唱室において曲目の選択がなされると、通信カラオケ事業者であるエクシングがホストコンピュータの記憶装置にデータベースとして複製しているカラオケ伴奏用音楽著作物(歌詞及び伴奏音楽)が、カラオケ歌唱室に設置した受信機に電話回線を用いて有線送信されて、受信機の記憶装置に複製され、モニターテレビに背景の映像とともに歌詞が映し出され、同時に伴奏音楽が再生され、それに合わせて歌唱することができる。

(二) 歌唱室には、アンプ、オートチェンジャーコマンダー(カラオケ予約受付機)、歌詞及び映像を表示するモニターテレビ、ワイヤレスマイク二本等が部屋の壁面に埋め込まれて設置され、スピーカーは天井から吊り下げられているほか、防音構造が施されている。

(三) 歌唱室に案内された客は、カラオケ選曲用早見目次集の中から曲目を選び、選択した曲目に付されたコード番号をリモコンのテンキーで入力し、入力したコード番号がコマンダーに表示されるので、誤りのないことを確認した後、リモコンについている「選曲」ボタンを押すと、(一)のシステムにより、選択した曲目の伴奏音楽の再生等が始まる。以上の手順は、従業員に説明を求めれば教えてもらうことができる。

(四) 本件店舗の料金は、二名から四名までの客の場合には二時間、五名以上の客の場合には三時間を基本利用時間とし、正午から午後五時までの間は右基本利用時間について客一人当たり五〇〇円、午後五時以降については右基本利用時間について客一人当たり一〇〇〇円と定められ、さらに三〇分単位の延長料金が一室単位で決められている。

(五) 本件店舗を訪れた客は、最初に受付で利用人数と利用時間を申告して受付伝票に記入した後、従業員によって特定の歌唱室に案内され、カラオケの利用方法について説明を受けた後、自らカラオケ機器を操作して歌唱する。また、本件店舗では飲食物も提供しており((四)とは別料金)、歌唱室から客がインターフォンで注文すると、従業員が飲食物を運んでくるようになっている。退店時には、リモコンを受付に持参して、料金の精算を行う。

2  伴奏音楽の再生及び歌唱の主体について

右によれば、本件店舗では、客は、指定された歌唱室内で、経営者が用意した特別のカラオケ用機器を使って、同じく経営者が用意した楽曲ソフトの範囲内で、決められたとおりの操作手順に従って選曲を行い、伴奏音楽を再生させるとともに歌唱を行うのであり、しかも右再生・歌唱は利用料金を支払う範囲で行うことができるにすぎない。

これちからすれば、客による右再生・歌唱は、本件店舗の経営者である被告らの管理の下で行われているというべきであり、しかもカラオケ歌唱室としての営業の性質上、被告らはそれによって直接的に営業上の利益を収めていることは明らかであるから、著作権法の規律の観点からは本件店舗における伴奏音楽の再生及び歌唱の主体は被告らであると解すべきである。

被告らは、本件店舗では、店舗経営者の従業員による歌唱の勧誘行為は行われず、カラオケ装置は客が操作し、各歌唱室は防音構造を採っているので客の歌唱が一定の雰囲気を醸成して他の客の来集を喚起するという効果がない点において、歌唱行為に関する客の独立性は確保されていると主張するが、本件店舗は、客にカラオケを利用させることを主たる目的として営業するものであり、そのための設備、ソフト、操作手順及び利用料金の支払の点で経営者の管理下に置かれているのであるから、本件店舗における客の歌唱行為が経営者から独立しているとはいえない。

二  争点1(演奏権侵害性)の(二)(対公衆性)について

右のとおり、本件店舗における伴奏音楽の再生及び歌唱の主体は被告らであると解すべきところ、被告らにとって、本件店舗に来店する客が不特定多数であることは明らかであるから、被告らによる伴奏音楽の再生及び歌唱は、著作権法二二条の「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」とするものであるといえる。

この点についての被告らの主張は、いずれも伴奏音楽の再生及び歌唱の主体が客であることを前提とするものであり、失当である。

三  争点1(演奏権侵害性)、の(三)(自由使用)について

著作権法附則一四条(平成九年法律第八六号による改正前)は、「適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生については、放送又は有線送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令で定めるものにおいて行われるものを除き」、当分の間、自由とする旨を規定しており、これを受けて、著作権法施行令附則三条一項は、右条項の適用が除外される事業として、「喫茶店その他客に飲食をさせる営業で、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し、又は客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの」(一号)等を掲げている。

先に一1で認定した事実からすれば、本件店舗の事業が、「営利を目的として音楽の著作物を使用する事業」に該当することは明らかである。また、一1(五)の事実からすれば、本件店舗の営業が「客に飲食をさせる営業」であることも認められる。さらに、客は、本件店舗内において、再生された伴奏音楽を聞き、それに合わせて歌唱することを楽しむのであって、それは「音楽を鑑賞」することにほかならず、前記一1(二)の事実からすれば、本件店舗においては「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けている」ものといえる。

したがって、本件店舗における被告らの営業は、著作権法施行令附則三条一号に該当するから、著作権法附則一四条の適用はない。

以上によれば、被告らは、本件店舗において、カラオケ機器を使って、管理著作物を公に再生及び歌唱することによって、原告の演奏権を侵害したものと認められる。

四  争点2(利用許諾に基づく適法利用)について

1  甲8及び乙20によれば、通信カラオケ事業に関する原告の管理著作物の利用許諾について、次の事実が認められる。

(一) 平成八年六月三〇日、原告と社団法人音楽電子事業協会(以下「音楽電子事業協会」という。)とは、音楽電子事業協会の会員である通信カラオケ事業者(この中にはエクシングも含まれる。)が管理著作物をカラオケ伴奏用にデータベースや端末機械の記憶装置に複製し、送受信装置を用いて有線送信する業務用通信カラオケ事業に利用することについて、次のとおり合意した。

(1) 平成四年九月一日以降、同七年九月末日までの管理著作物の利用(受信先店舗等における演奏・歌唱を除く。)に関する管理著作物使用料については、音楽電子事業協会は、原告に対し、定められた算定方法に基づいて平成八年一二月二七日までに支払う。

(2) 平成七年一〇月一日以降の管理著作物の利用(家庭用通信カラオケの場合を含む。)に関する管理著作物使用料については、両者協議の上、平成八年九月末日までに定める。

(3) 業務用通信カラオケの受信先店舗等における管理著作物の著作権侵害の解消と、その適法利用を周知・徹底するため、両者は協議を行い、平成八年九月末日までにその方策を具体的に定める。

(二) 平成九年一〇月二日、原告とエクシングとの間で、管理著作物をカラオケ伴奏用にコンピュータ等の記憶装置にデータベースの構成部分として複製し、かつ送受信装置を用いて、社交飲食店やホテル、旅館、カラオケボツクス等の事業所に送信し、提供するシステムにより、複合的に利用すること(ただし、受信先における演奏・歌唱は除く。)について、次のとおり合意した。

(1) 原告は、エクシングに対し、エクシングの業務用通信カラオケにより管理著作物を複合的に利用することを包括的に許諾する(第一条)。

(2) エクシングは、原告に対し、著作物使用料を支払う(第四条)

(3) 本契約の有効期間は、平成七年一〇月一日から平成一〇年三月三一日までとする(第一六条)。

2  右によれば、平成四年九月一日から平成七年九月末日までは(一)の合意により、同年一〇月以降は(二)の合意により、通信カラオケ事業者であるエクシングが、<1>管理著作物をカラオケ伴奏用にデータベースや端末機械の記憶装置に複製し、<2>送受信装置を用いて有線送信する事業について、原告の利用許諾を得たことが認められるが、右いずれの合意においても、本件店舗のような通信カラオケの受信先における演奏・歌唱については、利用許諾の対象外とされていることが認められ、このことは、エクシングの代表取締役である証人久保田鎭雄の証言からしても明らかである。

被告らは、エクシングの<2>の事業と本件店舗における管理著作物の再生・歌唱は不可分一体のものであるから、右合意による利用許諾によって本件店舗における再生・歌唱も適法化されると主張するが、管理著作物をデータベース等に複製し、それを有線送信する行為と、有線送信された管理著作物を再生し、歌唱する行為とは、著作権法上明らかに別個の行為であって、不可分一体の性質を有するとはいえない上に、前記のとおり、1(一)(二)の合意においては通信カラオケの受信先における演奏・歌唱等が利用許諾の対象から明確に除外されているのであるから、右合意をもって、本件店舗における被告らによる管理著作物の再生・歌唱が適法化されるとはいえない。

したがって、争点2に関する被告らの主張は理由がない。

五  争点3(損害)について

1  前記基礎となる事実及び争点に対する裁判所の判断一1での認定事実によれば、被告らは、共同して前記の著作権侵害行為を行っており、そのことについて故意又は過失があることは明らかであるから、被告らは、連帯して、原告に対する損害賠償責任を負う。

なお、被告らは、本件店舗における管理著作物の再生・歌唱による演奏権侵害行為については、楽曲データを複製し送信したエクシングと店舗経営者である被告らとが共同して責任を負う立場にあり、しかもその内部負担割合はエクシングが一〇〇パーセントとすべきであるとも主張するが、仮に右著作権侵害について、被告らとエクシングとが共同不法行為責任を負うとしても、共同不法行為の被害者たる原告は、共同不法行為者各人に対し、その内部的な負担割合にかかわらず、損害の全額を請求し得るのであるから、被告らの右主張は失当である。

2  そこで、損害額について検討する。

(一) 証拠(甲3ないし6、証人梅津裕)によれば、原告におけるカラオケ歌唱室での管理著作物使用料の設定・徴収について、次の事実が認められる。

(1) 本件店舗のような形態のカラオケ歌唱室は、昭和六三年ころから現れ始めたが、原告では、平成元年から、カラオケ歌唱室における管理著作物の利用許諾及び使用料徴収業務を開始した。

(2) 原告は、著作権仲介業務法に基づく許可を受けた音楽著作権仲介団体であり、同法三条一項により、著作物使用料規程を定めて文化庁長官の認可を受けること(変更するときも同じ。)とされているところ、原告は、昭和一五年以来、「著作物使用料規程」を作成・変更して文化庁長官(以前は内務大臣)の認可を受け、それに基づいて管理著作物の使用許諾及び使用料徴収業務を行ってきた。

しかし、平成元年当時の原告の著作物使用料規程(以下「旧規程」という。内容的には甲3と同じである。)では、カラオケ歌唱室における管理著作物の使用に関する規定が存しなかったため、原告では、カラオケ歌唱室を全国的に経営する大手事業者との協議を経て、平成元年四月、カラオケ歌唱室の使用料率(甲4。以下「本件使用料率」という。内容は別紙1のとおりである。)を策定し、これに基づいて全国的にカラオケ歌唱室の許諾徴収業務を実施し、平成八年七月の時点では、全国約一万店舗との間で利用許諾契約を締結するに至っていた。

(3) 旧規程における演奏等に関する使用料は、第二章第二節に規定されており、そこでは、「1 上演形式による演奏」、「2 演奏会における演奏」、「3 演奏会以外の催物における演奏」、「4 社交場における演奏等」、「5 ビデオグラムの上映」に区分した上、さらに細かな演奏等の形態に区分して使用料が定められていた。

(4) 原告は、平成九年八月一一日、右規程の第二章第二節中に、「4 カラオケ施設における演奏等」として、カラオケ歌唱室を含むカラオケ施設に関する著作物使用料規定を盛り込んだ変更を行い(それに伴い旧4以下は繰り下げ)、文化庁長官の認可を得た(以下「新規程」という。)。それによれば、カラオケ歌唱室において年間の包括使用許諾契約を結ぶ場合の月額使用料は、本件使用料率と同じ内容とされた。

(二) 右によれば、本件で原告が損害額算定の基準としている本件使用料率(別表1)は、本件での請求期間(平成六年四月から平成八年三月)当時原告の著作物使用料規程中に規定されていなかったと認められる。そして被告らは、このことから、本件使用料率は文化庁長官の認可を得ない基準であり、損害額算定の基準にはなり得ないと主張するので検討する。

(1) 前記のとおり、原告は、著作権仲介業務法に基づいて著作権仲介業務の認可を受けた者であるが、同法は、著作権に関する仲介業務を行おうとする者は業務の範囲及び業務執行の方法を定めて文化庁長官の認可を受けなければならないこと(二条)、仲介業務の認可を受けた仲介人は著作物使用料規程を定めて文化庁長官の認可を受けなければならないこと(三条一項)、著作物使用料規程の認可の申請があった場合には文化庁長官は、その要領を公告すべきこと(同二項)、出版を業とする者が組織する団体、興行を業とする者の組織する団体等は右要領について文化庁長官に意見を具申することができること(同三項)、文化庁長官は、著作物使用料規程を認可しようとするときは、著作権制度審議会に諮問しなければならず、その際には右具申された意見を提出しなければならないこと(同四項)、仲介人が認可を受けた著作物使用料規程に依らずに業務を行った場合には、五〇〇円(罰金等臨時措置法二条一項により二万円)以下の罰金が科せられること(一二条二号)をそれぞれ規定している。そして、同法が著作物仲介業務及び著作物使用料規程について、右のような規定を置いた趣旨は、著作物仲介人が著作権を集中管理することに伴う濫用的な業務執行及び著作物使用料の徴収を防止し、著作物使用料規程の内容が合理的かつ公正であることを保障することによって、著作物の利用を簡易かつ円滑化し、もって著作権の保護とその権利行使の適正を図り、併せて著作物の利用関係の円滑化を図ることにあると解される。このような同法の趣旨及び規定からすれば、著作物仲介人が、著作物の使用者に対し、認可を得た著作物使用規程に依らずに著作物使用料を徴収することは許されず、また、著作物使用料規程に依らない著作物使用料基準は、著作権侵害訴訟における損害賠償額の算定に当たつても基準とすることはできないものと解するのが相当である。

(2) そこで次に、本件使用料率が旧規程に依っているか否かについて検討する。

カラオケ歌唱室における管理著作物の利用を直接の対象とする具体的な使用料基準が旧規程中に存しなかったことは前記のとおりであるが、著作権仲介業務法施行規則四条が、著作物使用料規程に記載する著作物使用料率は著作物の種類及びその利用方法の異なるごとに格別に定めて表を作成すべきものとしていることからすれば、本来、カラオケ歌唱室について使用料を徴収するには、その利用方法の性質に応じた著作物使用料率を著作物使用料規程中に設けた上で行うのが本則である。しかし、著作物の使用形態は千差万別であり、技術や時代の変化に応じて新たな使用形態も出現するものであるから、そのすべての使用類型を著作物使用料規程に盛込んで基準化することが不可能であることもまた見やすい道理であり、そのような場合に、管理著作物の利用行為が現に行われているにもかかわらず、それを直接の対象とする使用料率の定めが著作物使用料規程中に存しないから使用料の徴収ができないというのでは、余りに著作権者の保護に欠けることとなる。原告の旧規程(新規程でも同様)では、「第二章第一二節 その他」として、「本規程の第二節乃至第一一節の規定を適用することができない利用方法により著作物を使用する場合は、著作物利用の目的および態様、その他の事情に応じて使用者と協議のうえ、その使用料の額または率を定めることができる。」とされているが、右規定は、このような事態を念頭に置いたものと考えられる。もとより、前記のような著作権仲介業務法の趣旨に鑑みれば、このような規定が存するからといって、著作物使用料規程中に直接規定されていない類型の著作物使用行為の使用料率について、原告の一存でどのような内容でも自由に定め得るものでないことはいうまでもなく、その内容が既存の著作物使用料規程に照らして合理性・相当性があり、また利用者との意見調整を経る等の前記著作権仲介業務法が規定する趣旨に沿った手続を経ること(この点は前記規定においても「使用者と協議のうえ」とされているところである。)を要すると解すべきであるが、それらが満たされる以上、原告が定めた使用料率は、全体として著作物使用料規程に対する認可の趣旨の範囲内にあり、なお認可を受けた著作物使用料規程に依るものと評価するに妨げなく、著作権侵害訴訟における損害算定の基準としても使用し得るものと解するのが相当である。

これを本件について見るのに、<1>原告が本件使用料率を定めたのは、平成元年当時にカラオケ歌唱室を全国的に経営する大手事業者との協議を重ねた上でのものであること、<2>原告は、平成元年四月以降、本件使用料率によって全国の多数のカラオケ歌唱室経営者との間で著作物利用許諾契約を締結してきていたこと、<3>本件使用料率は、一般的なカラオケ歌唱室における管理著作物の貢献度、規模、客単価及び利用時間等(本件店舗におけるものは前記基礎となる事実2(一)、争点に対する裁判所の判断一1(四)参照)を勘案すれば、既存の「演奏会以外の催物における演奏」の使用料率(旧規程第二章第二節3)と比較して相当なものといえ、著作物の利用形態が比較的類似すると思われるライブハウスや音楽喫茶における使用料(旧規程第二章第二節4の別表5)や社交場におけるカラオケ伴奏による歌唱の使用料(旧規程第二章第二節4の備考<16>)と比較しても同様のことがいえること、<4>本件使用料率は、事後的にではあるが文化庁長官の認可を得たことからすれば、本件使用料率は、新規程への変更前においても、前記の内容上及び手続上の要件を満たすものとして、旧規定に依るものであると解するのが相当である(なお、旧規程中、社交場における演奏等について、カラオケ伴奏による歌唱が行われる場合には、一演奏場所の客席面積が一六・五m2(五坪)以下のものについては使用料の支払を免除する旨定められているが、これは零細な事業者を保護するためのものであると解され、本件店舗を含むカラオケ歌唱室の営業形態を考えれば、その趣旨をカラオケ歌唱室に及ぼすことは相当でない。)。

もつとも、原告は、本件使用料率は旧規程中の「演奏会以外の催物における演奏」(第二章第二節3)の「(7) その他の演奏」の条項に基いて定めたとするが、カラオケ歌唱室では常設された室内で楽曲の再生・歌唱が反復して行われるのであって、催物とは性質を異にするから、右規定を根拠とするのは合理的とはいえない。また、原告は、平成元年四月から本件使用料率を定めて、全国的にカラオケ歌唱室における著作物使用料の徴収管理を始めたというのであるから、その旨の著作物使用規程の変更が平成九年八月までなされなかったというのは遅きにすぎるものともいえる。しかし、右のような点があるとしても、先に述べた諸点を考慮すれば、それをもって右基準が旧規程に依らないものであるとはいえない。

(三) 以上より、原告が主張する本件使用料率は本件で損害額を算定するに当たって基礎となり得るものであり、それによれば、被告らが原告に賠償すべき金額は、次のとおりである。

(1) 著作物使用料相当損害金

本件店舗では、ビデオカラオケが使用され、別紙1の基準中、区分1が一五室、区分2が一室であったから、月額使用料相当損害金は、消費税三パーセントを加算して、七万〇〇四〇円である(〔4000×15+8000〕×1.03)。そして、本件店舗におけるカラオケ利用期間は平成六年四月から平成八年三月までの二四か月であるから、この間の著作物使用料相当損害金は、一六八万〇九六〇円である(70,040×24)。

(2) 遅延損害金

(1)に対する平成八年三月三一日までの遅延損害金は、別表3のとおり、合計八万〇五九九円となる。

(3) 弁護士費用

本件訴訟の提起・追行のために原告は弁護士を依頼したところ、本件に現れた一切の事情を考慮すれば、弁護士費用相当損害金としては二〇万円が相当である。

第五  まとめ

以上によれば、原告の請求は主文第一項の限度で理由があるが、その余は理由がないから、主文のとおり判決する。

(平成一一年三月二三日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 水上周)

(別紙1)

1 ビデオカラオケ

<省略>

2 オーディオカラオケ

<省略>

3 レーザーディスクカラオケ、スーパーインポーズ方式を伴う通信カラオケについては、ビデオカラオケとして取り扱います。

また、ビデオカラオケとオーディオカラオケ(CD静止画付カラオケを含む。)を併用している場合は、ビデオカラオケの使用料になります。

4 定員が100名を超えるときは、50名までを超えるごとに、区分4の使用料額に区分1の使用料額を加算した額といたします。

5 定員が3名までのときは、区分1の使用料の80/100の額といたします。ただし、1室の面積が6m2以上のときは、この限りではありません。

〔備考〕

定員とは、設備されている客席の総数をいい、1人掛けの椅子席についてはその数を、2人掛け以上の長椅子式の椅子席については、当該椅子席の正面巾を0.5mで除して得た数を、椅子席以外の客席については、当該部分の面積を1.5m2で除して得た数を、それぞれ客席の数とみなします。

(別紙2)

<省略>

(別紙3)

遅延損害金計算表

<省略>

(注) 1ないし20:H=B*G*(F/365+91/366)

20ないし24:H=B*G*(E/366)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例